フットケアにおけるフィラピー(FIRAPY)の有用性《前編》

By Firapy Club • 15 Oct, 2019

            【血液透析患者さんのためのシャント管理とフットケアの新しい治療法】を抜粋した
福井 光峰(医療法人社団松和会 望星田無クリニック 院長)

サマリー

  • 末梢閉塞性動脈疾患におけるフィラピーの治療効果についてのエビデンスはまだ少ない。
  • 現時点でのフィラピーは、重症下肢虚血患者の補助療法として、各種フットケアと組み合わせて施行することが望ましい。
  • 無症候性下肢閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)および間欠性跛行ASOを有する患者では、フットケアの一環として治療に用いることが望ましい。

1.各国でのフィラピーの使用経験

フットケアでのフィラピーの使用経験は、現在知見が蓄えられているところです。フットケアにおけるフィラピーの効果などを検証する大規模臨床試験などはまだ公開されていません。現時点では少数しか論文化されておらず、大多数の臨床試験などは学会で報告され始めている段階であり、今後報告されると思われます。

これまで論文化されたものは、台湾よりBurger病(閉塞性血栓血管炎(thromboangitis obliterans:TAO)の治療に有効であったとの症例報告1)があります。また、2016年に透析患者108名を2群(フィラピー治療群50名、フィラピー治療なしの対照群58名)に分け半年間のABI(足関節/上腕血圧比)の変化を検討した報告では、両群間に有意な差は無かったとのことでした2)

学会報告としては、我々のグループが日本透析医学会総会で血液透析患者の末梢動脈疾患の創傷治癒を速めたとの報告3)や台湾のChen C-F、 LinC-Cらが血液透析患者198名中ABI 0.9 以下だった51名にフィラピーを透析中に40分間照射し半年間続け、透析前後でのABI測定結果と間欠性歩行を訴えた患者さんの割合の変化を検討したものがあります。フィラピー照射半年後のABIは透析前では有意差は無かったが、透析後のABIは有意に上昇しており、間欠性歩行を訴えた患者さんはフィラピー治療前の62.7 %から治療後41.2 %に減少したと2017年の日本透析医学会総会で発表しています4)。フィラピー以外でも、遠赤外線療法自体の末梢閉塞性動脈疾患(PAD)への応用は近年注目を集めています。日本の13学会合同研究班が報告した末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015年改訂版)5)では、重症下肢虚血を有する患者さんで血行再建術のみでは創傷治癒や下肢大切断を回避する血流が十分に得られない場合の補助療法として、2009年初版には記載がなかった和温療法(60 ℃、15分間の遠赤外線乾式均等サウナと出浴後30分間の安静保温、そして水分補給を組み合わせた治療、すなわち全身用のサウナ室と安静保温のための休息室が必要ですが推奨されています。フィラピーとは全身と局所への照射、照射後の安静保温の有無などに違いがあり、一概には言えませんが、遠赤外線治療の可能性を示唆しているものと思われる。

2.フィラピー使用の実際・効果と注意点は?

1)フィラピー使用の実際と効果

まず、我々が経験した症例を提示しフットケアへの考え方とフィラピー使用の実際・効果について述べます。図1にこの症例の経過の要約を示しました。

(症例)78歳 女性 22年前に糖尿病性腎症にもとづく慢性腎不全で血液透析を導入された患者。

既往歴:20年前十二指腸潰瘍で輸血。8年前二次性副甲状腺機能亢進症で副甲状腺摘出術。6年前下血(大腸ポリープ、大腸憩室による)現病歴:2013年12月に失神発作と低酸素血症で入院。入院中重症大動脈弁狭窄症を指摘されたが、保存的治療で症状は軽快したため一旦退院された。その後の精査にて大動脈弁狭窄兼閉鎖不全、僧帽弁狭窄兼閉鎖不全、三尖弁閉鎖不全と診断された。2014年3月に大動脈弁および僧帽弁置換術(双方とも機械弁)、三尖弁輪縫縮術を施行されるも、術後洞不全症候群を合併したためペースメーカー植込み術を受けた。

退院後、左第1趾の巻き爪による傷の治癒が軽快増悪を繰り返し、潰瘍化したため10月に下肢CTアンギオを施行され、左浅大腿動脈75%、膝窩動脈65%の狭窄、前脛骨動脈に2ヵ所閉塞、足関節以下へは血液連絡あり、腓骨動脈・後脛骨動脈は途絶していた。腓骨動脈の狭窄に対しバルーン拡張術を施行するも、左下腿潰瘍の改善はなく、12月に某大学病院に入院。入院時の皮膚灌流圧(Skin Perfusion Pressure:SPP)は、左足背20 mmHg、左足底33 mmHgであった。下肢の血行再建術が施行され前腓骨動脈100%→25%、腓骨動脈90%→25%、後脛骨動脈90%→25%、膝窩動脈75%→25%、浅大腿動脈75%→25%に動脈の狭窄度が改善した。血流の再灌流後に左第4趾感染を認めたため左第4趾切除するも、その後壊死拡大を認めたため2015年1月に左第3・5趾も切除を行い複数回のデブリードメント後植皮を行うも8割程の生着であり、残存潰瘍部はフィラピー(透析中に患部に40分間照射)を含めた外来フットケアの継続で経過観察となり、2015年3月に退院した。入院中にフィラピー開始され、治療前SPPは右足背77 mmHg、右足底61 mmHg、左足背30 mmHg、左足底64 mmHgであった。

2015年5月の外来時には左下肢の著明なむくみとSPPが左足背20 mmHg、左足底20 mmHg前後まで低下していたため、6月に再入院し血行再建術再施行。左前腓骨動脈90%→25%、左膝窩動脈90%→25%、左浅大腿動脈75%→25%まで拡張し、SPPは左足背49 mmHg、左足底68 mmHgまで改善を認めた。その後、左第1および2趾断端形勢術を加えて実施した。フィラピーは、この間も毎透析時に施行し続けた。

その後の外来経過は、2016年1月SPP:左足背40 mmHg、左足底40 mmHg前後と順調に推移していた。しかし、4月の外来時に左下肢のむくみを認め、SPP:右足背23 mmHg、右足底18 mmHg、左足背17 mmHg、左足底20 mmHgまで低下していた。今回は右下肢のSPPの低下も著しいため、2016年5月に右血行再建術を右前腓骨動脈と右膝窩動脈に施行し良好な血流が得られ、6月に左下肢の血行再建術左浅大腿動脈から左膝動脈までの高度狭窄に対しバルーン拡張を行った。

6月末の外来時のSPPは右足背52 mmHg、右足底61 mmHg、左足背63 mmHg、左足底65 mmHgと入院前より著しい改善を認めた。 外来で、定時心電図上V1-6のST逆転を認めたため、2016年11月に冠動脈造影を施行するも、病変の進行は認められず冠動脈の血行再建の適応は無く退院となった。

その後は、フットケアを継続し新たな創傷も認めず、下肢の血行再建術後1年経過した2017年5月のSPPでは右足背54 mmHg、右足底56 mmHg、左足背60 mmHg、左足底47 mmHgと良好な値を保っていた。現在、最後の血管再建術後1年半たっているが、再狭窄は認めていない。図1、2に左下肢の創傷の経時変化を示すが、2回目の入院以降は特に新たな潰瘍形成などは認められていない。


〈本症例からのフィラピーの位置付け〉 本症例は、PADに重症下肢虚血、創傷感染を合併した症例で、フィラピーを発症当初より約2年継続して経過観察することが可能であった。 日本透析医学会の「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」6)では、透析患者さんのPAD罹患率は一般人口より高く、臨床症状による頻度は15~23%、ABIを用いた検討では、ABI<0.9を基準とした場合、欧米で33.0~38.3%、日本は16.6~16.7%であった。末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドラインではPADの発症率は15~24%とされています。つまり、日本の透析患者さんの約2割前後がPADに罹患していると考えられ、特に喫煙と糖尿病が重大な発症リスクファクターです。この患者さんは、喫煙歴はありませんが、糖尿病性腎症で20年ほど血液透析を受けています。

下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)患者さんで、治療前に注意する必要があるのは、脳・心血管の合併が多いことです。REACH registry7)に日本から登録されたASO患者さんのうち30 %は心血管(CAD)、21 %は脳血管疾患(CVD)、また7%はASOとCAD、CVDの3者を合併しています。すなわち、ASO患者さんの44%は他の血管疾患を有していると考えられ、予後に大きく影響しています。



提示した症例では、複合心臓弁膜症で慢性心不全を合併しており、その原因は糖尿病による動脈硬化だけでなく、透析合併症である二次性副甲状腺機能亢進症による異所性石灰化が、心臓弁のみならず下肢動脈閉塞に強く関与していると考えられました。

ASOの治療に関しては、末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドラインでは、大きく無症候性患者さんと間歇性跛行を有する患者さん、重症下肢虚血を有する患者さんに分けて考えられています。無症候性ASOとは、具体的にABI<0.9あるいは画像所見で下肢動脈の閉塞性所見を呈しながら間歇性跛行や重症虚血症状がない患者さんで、下肢筋肉のエネルギー効率が良いため歩行による虚血症状が表れにくいタイプと、歩くと症状は出るが積極的に歩かないため自覚症状として認識されないタイプに分けられます。臨床上はこの2つのタイプは分けて検討されなければなりませんが、現実的には困難です。治療に関しても生活習慣の改善を含めた動脈硬化性疾患の発症予防と進行抑制、生命予後の改善、脳心血管イベントの回避が重要です。薬物療法はABIが0.9以下の患者さんに対しては、費用対効果の観点からも積極的に行う必要があるとの報告もありますが、ABI 0.9~1.0の患者さんでは有効性について今後の検討が待たれると述べられています。また注意すべき点として糖尿病・透析患者さんでは、重度の虚血を有しながら症候の明らかでない患者さん(潜在的重症下肢虚血:subclinical CLI(TASC IIではchronic subclinical limb ischemiaと定義)が存在し、潰瘍・壊死が突然発症することが少なくないことを考慮すべきであると述べられています。これは、フットケアでのフィラピーの今後の適応を考えるうえで重要な課題です。

間歇性歩行を有する患者さんの治療は、無症候性患者さんの治療に加え初期治療として監視下運動療法、心不全のない患者さんでのシロスタゾールの投与などをレベルAで推奨し、これらの治療で不十分な場合は血行再建を検討するとあります。先に紹介した台湾からの発表4)では、フィラピーを行い症状を訴えた患者さんが約30%ほど減少したことを認めています。

重症下肢虚血(CLI)を有する患者さんの治療では、チーム医療によるフットケアの重要性が強調されています。救肢のために、技術的に可能であれば血行再建を行うことが推奨されていますが、血行再建後に創傷治癒が遅延する症例に対する補助療法の必要性も強調されています。ただし、薬物療法ではCLIに対して単独で有効性を示す薬物は無く、一般に血管拡張薬は虚血部より近位の動静脈シャントを拡張させ、虚血部の血流を増加させず、かえって虚血を悪化させる現象がみられることから使用適応となる患者さんは少ないのが現状です。その他の補助療法も色々紹介されており、先に紹介した和温療法(保険適応外)も示されています。補助療法は組み合わせが重要であると思われるが、簡便に施行できるフィラピーについては、今後の臨床試験の結果が待たれるところです。

血管再建術後の創傷治癒には遅延があると述べましが、膝下動脈領域での血管内バルーン治療の再狭窄率は3カ月で70%であるとの報告があると、末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドラインで紹介されています。また、現時点では技術的に足首よりさらに末梢の血管に対する再建術は困難であることが、創傷治癒の遅延を起こす理由の一つと考えられます。極論すればそのような患者さんでは、再狭窄までの3カ月以内で足の末梢までの側副血行路の発達を促すことが大切で、俗に所謂“ラスト1マイル”をどうつなぐかが創傷治癒の面からは重要と考えています。ここで述べる“ラスト1マイル”とは、血管再建術が可能な足首までの血管と、皮膚潰瘍治療の出来やすい足趾末端までの間をさします。フットケアを含めたフィラピーの適応についての臨床エビデンスの蓄積が待たれます。

我々の症例も血管再建術後6カ月、12カ月後に再狭窄を認め繰り返し血管再建術を施行しています。フィラピーは、創傷感染のコントロールの目処がついておこなった血管再建の術後から続けています。創傷治癒に関しては、退院時植皮が8割くらいの生着でしたが、2回目(血行再建術後6カ月、実際の退院からは1カ月)の血行再建術施行時に断端形成術を加えた後は良好な経過を保っています。一年後(3回目)の血管形成術時も創傷の明らかな悪化を認める前に施行されています。この間の外来でのフィラピーでの有害事象などは認めませんでした。血管の再狭窄が発生しても、創傷に至らないうちに再建術を行うことが出来得るなら、患者さんのADLなどは良好に保てると思われました。

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