フットケアにおけるフィラピー(FIRAPY)の有用性《後編》

By Firapy Club • 16 Oct, 2019

            【血液透析患者さんのためのシャント管理とフットケアの新しい治療法】を抜粋した
福井 光峰(医療法人社団松和会 望星田無クリニック 院長)

2.フィラピー使用の実際・効果と注意点は?

2)フィラピーの基礎的研究

Yu S-Yらは、ラットの実験でフィラピー照射中は皮膚の微少循環血流に変化はなく、照射終了後より微小循環血流が増加し、この効果はNO合成酵素を阻害するL-NAMEの投与により血流増加が抑制されたと報告しました8)。Tu Y-Pらは、ラット睾丸での虚血/再灌流モデルでフィラピーがアポトーシスを抑制したが、単純な光熱ランプによる加温ではそのような効果がなかったと報告しています。その機序として、酸化ストレス障害の抑制と深く関係するheat shock proteinであるheme oxygenase-1(HO-1)の発現増加がフィラピーにより認められることを指摘しています9)。これらは、フィラピーの効果は加温によるものではなく、NO産生や酸化ストレスの抑制などを介する機序であることが考えられました。

また、近年はフィラピーの再生医療への応用や、効果発現の機序の遺伝子レベルでの基礎研究が検討され始めています。Wang H-Wらは、再生医療分野でのフィラピーの可能性について報告しています10)。彼らは、ヌードマウスの後ろ脚大腿動脈結紮による重症下肢虚血モデルを作成し、ヒトから採取したendothelial colony forming cells(ECFCs : 血管幹細胞)を糖尿病に模した高血糖下で培養し、フィラピー群と非治療群、増悪因子であるmicroRNA-134を過剰発現させた後フィラピー照射行った群などに分けた血管幹細胞をヌードマウスの患肢に筋注し、血管再生治療の効果を検討しました。フィラピー照射は、いずれの群でも血流の回復を非照射群に比べ有意に増加させていました。このことは、糖尿病透析患者さんに多い重症下肢虚血への再生医療の問題点だった血管幹細胞機能低下に対するフィラピーの応用に期待をもたせる結果であろうと推測されます。さらに、Chen C-Hらは、糖尿病合併症の原因物質と言われているadvanced glycation end products(AGE)に対するフィラピーの効果を培養細胞とマウスの双方で検討した結果を報告しています11)。彼らによれば、フィラピー照射はヒト臍帯静脈由来の培養内皮細胞においてAGE惹起のアポトーシスを抑制しました。また糖尿病マウスにおいてフィラピー照射は、血清AGE濃度および血管内皮におけるAGE代謝物の沈着を低下させていました。これらの効果の機序として、PLZF[promyelocytic leulemia zinc finger protein:核転写因子の一種で、phosphatidylinositol-3 kinases(PI-3K)を活性化する]のオートファージ(自食)作用をフィラピーが活性化することが考えられました。この研究は、糖尿病合併症治療の一助としてフィラピーの可能性を示唆しています。

3)フィラピーのASOへの適応

基礎研究はかなりそろってきており、臨床の場への応用は、血液透析患者さんのシャント再狭窄予防だけでなく、ASOの治療へと範囲が広がってきています。しかし、前述したようにASO治療の成績については、まだ緒についたところです。

我々の症例数はまだまだ少ないですが、そのなかから得た血液透析患者さんにおいての知見を適応としてまとめてみたいと思います。 血液透析患者さんにおいて、末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン5)に準じて無症候性の患者さん、間欠性跛行を有する患者さん、重症下肢虚血(CLI)を有する患者さんに分けて考えてみました。

  • 無症候性の患者さんの場合:血液透析患者さんではフィラピーの適応は治療6カ月後でもABIの改善を認めなかったとの報告2)があり、積極的に適応があるか否かは不明です。ただ末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドラインでも述べているように糖尿病・透析患者さんでは、subclinical CLIが多く、潰瘍や壊死が突然起きる特殊性を加味すると、やはりフットケアが重要であり、その一環でのフィラピーの応用と考えます。しかし、今後更なる検討は必要です。
    • 間欠性跛行を有する患者さんの場合:透析前後に測定したABIの改善が認められなくても、間欠性跛行の訴えが減ったとの報告4)などより、フィラピーは適応と考えます。しかし、全般的なフットケアが重要で、血行再建術のタイミングを遅らせないよう十分な観察を行いながらフィラピーを施行するのが大切と考えます。
    • CLIを有する患者さんの場合:末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドラインやフットケア学会の公式ガイドブック12)でも推奨されているのは、まずは血行再建術であり、血管内治療かバイパス術を選択します。提示しました症例のように血行再建術後も創傷治癒が遅延を示す症例があり、その補助療法としてフィットケアやフィラピーを検討する価値はあると思います。

4)フィラピーの注意点

フィラピーは、使用説明書どおりに使用すれば、安全な治療法ですが注意すべき点はあります。重症下肢虚血患者さんに感染が合併した場合、まずは感染コントロールを行い、その後フィラピーを施行するところは血行再建術を施行するタイミングと同じです。

ASOでフィラピーを受けられている透析患者さんでは、透析中のフィラピーで、照射20-30分後位より血圧が下がる患者さんも見受けられます。そのような患者さんには照射部位を末梢(足首から先)に変えると比較的血圧が保てることを経験しています。先に述べました“ラスト1マイル”をつなぐ、つまり血行再建術で足首関節までの血管を開き、その先の指先やかかとまでの側副血行路の形成を促進する目的でフィラピーを行うのなら末梢側に照射部位を変更することもリーズナブルであると考えられます。しかし、今後の検討が必要です。

5)フィラピーの今後の課題

フットケアにおけるフィラピーは始まったばかりであり、解決しなければいけない問題がいくつかあるのも事実です。

遠赤外線を照射する部位の問題があります。遠赤外線は皮膚から約4センチ位の深度までエネルギーが届くといわれています13)。我々の症例では透析中に施行した関係上、正面照射でしたが、膝下の血管に届く途中にある骨が照射エネルギーに及ぼす影響などは不明です。また、骨の影響をさけるための側面または後方からの照射の方が効果的なのか否かも不明です。同様に体格差やむくみの程度などによる効果に違いはあるのか否かも検討が必要です。また、先に述べたCLI患者さんでの“ラスト1マイル”の考え方にのっとると、足首から先にかけての照射で十分なのかなどについても今後の検討が必要です。

フィラピーの開始時期に関しては、無症候性ASOから、または間欠性跛行を訴えてからでも間に合うのかなどについても、今後検討する必要があります。

照射する頻度についても未解決です。我々は、透析患者さんを対象に検討を行ったため週3回の透析時にフィラピーを行いましたが、血圧が低下する症例を経験することから、透析を行っていない時にフィラピーを施行した方が良いのか、また頻度は週3回ではなく連日がいいのかなどの検討も必要と思われます。

フィラピーの効果判定のはっきりした基準はありません。最近、話題になっているwound blushの概念を用いることが可能なのかの問題があります。wound blushとは、血行再建後に(digital subtraction angiography)DSAを撮影した際に見られる創部への微小血流と定義され、wound blushが見られた患者さんでは、見られなかった患者さんより創部の治癒がよかったとの報告があり、血管内治療のend pointとして提唱されています14)。フィラピーが血管再建術後のwound blushの形成を促すのか否か、または、フィラピー単独で微小血流の増加が認められフィラピーのend pointとなりうるのかなど、今後検討する必要があると思います。

副作用として、透析中に血圧が下がることがあります。患者さんが温熱療法と間違え皮膚温度が上がらないと効果が出ないと思い込み、やけどの危険が認められるほど照射ランプを患部に近づける患者さんがいましたので、医療スタッフや患者さんにフィラピーの効果は温度と関係ないことを十分に説明することが重要です。

おわりに

フットケアにおけるフィラピー使用の実際・効果と注意点などについて述べました。日本フットケア学会のガイドブックでも述べられているように、「足を生涯守るためには、いわゆるフットケアで足病変を予防し、先進的治療で足を総合的にケア、治療しなければならない」と思います。フィラピーも単独での治療と考えるのではなく総合的な治療の一環として臨床の現場に応用出来れば有用であると思われます。

文献

  1. Chiang I-H, Chen S-G, Tzeng Y-S. Treatment of Thromboangitis Obliterans using smoking cessation and Fir-infrared therapy: A case study OWM 63(7)2017, 20-23
  2. Hen S-C, Lee M-Y, Huang J-C et al, Association of Far-Infrared radiation therapy and Ankle-Brachial Index of patients on hemodialysis with peripheral artery occlusive diaease. Int J Med Sci 2016; 13(12): 970-976.
  3. 山田 芳、井尾浩章、中田純一郎、ほか 血液透析患者の末梢動脈疾患(Perioheral Arterial Disease: PAD)に対する遠赤外線療法(Fir-infraredtherapy: FIT)の評価: 日本透析医学会雑誌 48-supplement 1, 2015, P3-558
  4. Chen C-F, Lin C-C et al, Far infrared therapy improves Ankle Brachial Index in hemodialysis patients with peripheral artery disease. 日本透析医学会雑誌 48-supplement 1, 2017, GI-16-3-6
  5. 2014年度合同研究班報告 班長 宮田哲郎、 末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(2015年改訂版)、日本循環器学会ホームページ(ガイドライン)公開のみ
  6. 社団法人 日本透析医学会、「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」: 日本透析医学会雑誌 44(5):337-425, 2011
  7. Yamazaki T, Goto S, Shigematsu H, et al. Prevalence, awareness, and treatment of cardiovascular risk factors in patients at high risk of atherothrombosis in Japan. Circ J 2007; 71: 995-1003
  8. Yu S-Y, Chiu J-H, Yang S-D et al, Biological effect of far-infrared therapy on increasing skin microcirculation in rats. Photodermal Photoimmunol Photomed 2006; 22: 78-86
  9. Tu Y-P, Chen S-C, Lin Y-H et al, Postconditioning with far-infrared irradiation increase heme oxygenase-1 expression and protects against ischemic/reperfusion injyury in rat testis. Life Sci . 2013; 92(1): 35-41
  10. Wang H-W, Su S-H, Wang Y-L, et al, MicroRNA-134 contributes to glucoseinduced endothelial cell dysfunction and this effect can be reversed by Far-Infrared irradiation. PloS ONE 11(1): e0147067. Doi; 10. 1371/journal.pone.0147067
  11. Chen C-H, Chen T-H, Wu M-Y, et al; Far-infrared protects vascular endothelial calls from advanced glycation end products-induced injury via PLZF-mediated autophagy in diabetic mice. Sci. Rep . 7, 40442; doi: 10.1038/srep40442(2017)
  12. 一般財団法人 日本フットケア学会 編、 大竹剛靖、第4章 透析患者の足病変 フットケアと足病変治療のガイドブック、東京:医学書院
  13. Vatansever F, Hamblin MR, Far infrared radiation(FIR): its biological effects and medical applications. Photonic and Lasers Med . 2012 November 1; 4:255-266. Doi:10.1515/pim-2012-0034
  14. Utsunomiya M, Nakamura M, Nakanishi M, et al : Impact of wound blush as an angiographic end point of endovascular therapy for patients with critical limb ischemia. J Vasc Surg 2012 ; 55 : 113-121

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